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そして
瞳を開く時
+============【2】============+



いつも通りサッカー部の朝練を終え、教室に入る。HR開始15分前の教室にはまだ半分ほどしか生徒がいない。遼は当てられた数学の問題を確認しながら、クラスメイトの他愛のないお喋りを聞くとはなしに聞いていた。
知らせは余りに唐突だった。

「なあ、聞いたか? 隠岐の事故」
「ああ、遺跡の発掘中に爆弾が爆発したってヤツだろ」
「何、バクダンって?」
「第二次大戦の時の不発弾らしいぜ。何で今さらってカンジだよな」
「ってゆーか隠岐ってどこよ。何掘ってたんだ?」
「さぁ・・・平安時代のナントカ上皇って人の何やら・・・」
「それじゃ分かんねーよ」
「とにかく、すげェのが埋まってるって話だ。ヘタすりゃ日本史の常識がひっくり返るかもってくらいの」
「へぇ〜。でもそんな事故があったんじゃ、発掘なんて中止だろ」
「そりゃそうだろ。だって一人死んでんだぜ。ナントカ柳生っていう若い女学者」
「あ、見た見た。ニュースで写真出てた。ハーフですっげェ美人なの」
「もったいねー。どーしてそうゆう人が死ぬかなァ」
「爆発直撃でもうバッラバラに吹っ飛んじまったって」
「ぎゃーっ、やめろよ!」

会話の中にゴシップ好きの放送部員と歴史オタクで知られる図書委員長がいなかったら、ただのヨタ話と聞き流していただろう。
「それ、いつの話だ?」
「え? あ・・・真田。何?」
ワイドショー系の話題に興味を示さない遼がいきなり口を挟んだので、彼らは当惑したようだった。
「その事故はいつ?」
尋常でない剣幕に押されて同じ内容が繰り返される。
「今朝の明け方らしいぜ。朝イチのニュース速報で入ってた」
「死んだ人、ナスティ=柳生って言わなかったか?」
「ああ、そうそう。確かそんな名前。・・・何で知ってんの?」
質問には答えず、遼は教室を飛び出した。一同は止めることも忘れ、唖然と見送った。


購買の公衆電話の前でありったけのテレフォンカードを取り出す。かける先は当麻のマンション。彼ならきっと何か知っている。
カタリと回線の繋がる音がし、続いてツーツーという電子音が鳴った。話し中だ。遼は乱暴に受話器を戻し、駅へと駆け出した。
駅に着いてから再び電話をかける。2回の呼び出し音の後、
『はい、羽柴です』
聞き慣れた声が応答した。
「当麻? おれだ、遼だ。ナスティが・・・!」
混乱しているのが自分でも分かった。ちゃんと筋道を立てて話さなければと思うのだが、心臓がむやみにバクバク言うばかりで、言葉が出てこない。
それに対し、当麻の反応は至極冷静なものだった。
『知っている。さっき伸と征士からも電話があった。今、オヤジとおふくろのつてを頼って情報を集めているところだ』
「じゃあ・・・」
『詳しいことが分かり次第連絡する。マスコミの報道に踊らされるなよ。とにかく今は待つんだ』
「待ってなんかいられるか! おれも隠岐に行く!」
『バカ、頭を冷やせ! 警察や自衛隊が出動してるんだぞ。お前が行ってどうなる!?』
「でも!!」
耳鳴りがするほどの恐怖と悲しみ。涙が頬を伝う。遼は無意識のうちに、ナスティを幼い頃亡くした母に重ね合わせていた。あんなに親身になって自分を心配し、叱り、励ましてくれる人を、温かい手を、また失ってしまうなんて・・・。
「何もできないかもしれない。でも・・・じっとしてられないんだ・・・」
途切れ途切れに嗚咽が混じる。当麻はため息をついた。
『・・・分かった。今日は土曜だし学校が終わったらすぐナスティの家に集まろう。話はそれからだ』
「当麻」
遼の声が心持ち明るくなる。
『お前のことだ、どうせ言っても聞かないんだろう。まあ、征士や伸も似たようなもんだが・・・。とにかく、くれぐれも早まるなよ!』
一方的に念を押して、電話は切れた。
「早まるな」と言われたが、遼はすでに小田原への道筋を組み立てていた。




「ふぃ〜、腹減ったァ」
毎朝の日課のジョギングを終えて、開口一番、秀が叫んだ。
「さ、メシメシ・・・と?」
店の裏手に廻り自宅のドアに手をかけた時、白い影が目に入った。
「純!?」
まさかと思いつつ、その姿に該当する名前を呼んでみる。
「お兄ちゃん・・・」
寒空の下、少年は上着さえ着ていなかった。覚束かない足取りで向かってくるのを、慌てて支えてやる。小さな身体はすっかり冷え切っていた。秀は抱きかかえるようにして家の中に連れ込みながら、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「お前、どーしたんだ!? 一人なのか? お父さんとお母さんは?」
好奇心をむきだして群がってくる弟や妹を追い払い、温かいミルクを作ってやる。
「パパとママには内緒できた。秀兄ちゃん家が一番近かったから、電車に乗って・・・あとは歩いて・・・」
「歩いてって、駅からか!? こんなカッコで、こんな朝早く・・・」
無鉄砲には定評のある秀から見ても無茶な行動だった。
「一体何があったんだ? 話してみろ。家出なら両親に話つけてやるから」
「家出じゃないよ! ぼく、お兄ちゃんにお願いがあって来たんだ」
「お願い?」
小学生をここまで衝き動かすお願いとは何だろう。秀は豊かとは言い難い想像力をフル回転させて考えた。だが、

「ぼくを妖邪界につれてって」

告げられた答えはあらゆる予想を上回るものだった。
「な・・・何言ってんだ、純? あんなとこ、そう簡単に行けるもんじゃ・・・」
「わかってる。でも行かなきゃ! お姉ちゃんが危ないんだ」
「お姉ちゃんって、ナスティか?」
秀の顔色が変わる。
「うん。お姉ちゃん、妖邪門に吸い込まれちゃったんだ」
「なんだって!? どうしてそんなっ?」
「わかんない・・・眠ってたら急に見えたんだ。でも夢なんかじゃないよ!」
言われなくとも分かった。純の首には命の勾玉が架かっていた。あの戦いが終結した後、いずこにか消え去った神器の一つが。
消えたといっても消滅した訳ではない。秀達5人の鎧がそうであるように、然るべき者が召喚すれば現れるだろう。だが純に勾玉を召喚するような理由があるとは思えない。
勾玉は自ら現れたのだ。もう1人の使い手たるナスティの危機を教えるために。
「いいか純、落ち着いて思い出せよ。ナスティはどこにいた?」
秀は体温が一気に下がるのを感じながら、なるべくやさしく問いかけた。
「・・・何か真っ暗な、森みたいなとこ。場所はわかんない。男の人がいて、お姉ちゃんはその人をかばったみたいだった」
「じゃあ妖邪門はその男に引き寄せられたのか」
「たぶん。お姉ちゃんが吸い込まれて、ぼくは一生懸命助けようとしたんだけど届かなくて・・・そのうち門がものすごい音を立てて爆発して・・・、目がさめた」
純は身震いして両肩を抱え込んだ。秀は上着をかぶせ、背中を撫でてやる。
2人とも口には出さないが、最悪の予想に押しつぶされそうだった。

「・・・よし、ナスティん家に行こう。オレは妖邪門は開けねぇけど、あそこで待ってりゃきっと向こうの誰かが来るはずだ」
推測というより確信に近かった。もし純の話が本当なら、妖邪界でも何らかの異変が起こっていて不思議でない。魔将達や迦遊羅は必ず動く筈だ。
秀は純に弟妹たちと一緒に朝食を食べさせてから、手早く身支度を済ませた。
「オレ、今日学校休むから!」
仕込みを終えて戻ってきた両親は、飛び出してゆく長男と見慣れぬ少年を呆気にとられて見送った。




人間界サイドの反応・・・地味ですね(笑)
でもこの辺りをしっかり書き込まないと、ますます現実味のないドリーミン(笑)な戯言になってしまうので、しばしお付き合いくださいませ。




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