【登場人物】
真田 遼(マリア) / 毛利 伸(ヨセフ) / 羽柴当麻(天使1) / 秀 麗黄(天使2)
伊達征士(大道具・照明・ベツレヘムの星)
泉 鏡一(脚本・演出・指導)
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■一幕
とある高校の教室。
総合学習として児童福祉を選択した生徒が、小学校のクリスマス会で寸劇を上演することになり、打ち合わせをしている。
やがて担当の教師が登場。
泉:「児童福祉選択者だな。君らの指導をすることになった演劇部顧問の泉だ。手加減はせんので覚悟するように」
秀:「マジ!? たかがクリスマス会の余興でそこまでやんのかよ!」
征士:「だが練習は必要だろう」
遼:「そりゃそうだけど・・・」
伸:「小学生相手にあんまり専門的なことやっても、ねぇ」
当麻:「大体この設定、相当ムリがあると思うぞ」
泉:「そこ、私語は慎むように。まずは基本の発声から始める。全員、体操服に着替えてグラウンド20周」
当麻:「ちょっと待て! 発声と言っておきながら、なぜ走る!?」
泉:「腹式発声は横隔膜と腹筋と肺活量が命だ。四の五の言わずにさっさと動け。終わったら柔軟と筋トレな」
秀:「誰だーッッ、こんなおっさん呼んできたヤツ〜!?」
■二幕
一幕と同じ教室。
泉が5人に台本を配る。
泉:「では、キャストを発表する。マリア・真田、ヨセフ・毛利、天使その一・羽柴、天使その二・秀、伊達は大道具と照明だ」
征士:(手を挙げて)「異議あり」
泉:「何だ、伊達? 役者をやりたいのか?」
征士:「違う! この脚本だ。天使が登場するのはマリアの受胎告知の時であって、キリスト生誕の時ではない。こんなデタラメをいたいけな小学生に教えてよいのか!」
当麻:「あー、そう言えばそうだな。何か妙だと思った」
秀:「別にいいじゃん。クリスマスらしくて」
征士:「よくない! 事実を歪曲するのは私の信念に反する」
泉:「・・・伊達、好きなテレビドラマは何だ?」
征士:「? 『水戸黄門』とN●K大河は欠かさず観ているが・・・」
泉:「史実では水戸光圀は、諸国漫遊・世直しの旅などしなかった筈だ」
征士:「!!!」
泉:「他に質問は? ないなら読み合わせに入るぞ」
征士、がっくりとうなだれる。遼がその肩をたたいて
遼:「征士、気持ちは分かる。おれだって女装なんてしたくない。でも子供達が喜んでくれるなら、それでいいじゃないか」
征士:(少し感動して)「遼・・・。そうだな、これも奉仕のうちだ」
秀:「しっかし遼が主役とはな〜。大丈夫なのか、この芝居?」
伸:「秀が天使ってのもあり得ないと思うけどね」
秀:「余計なお世話だッ!」
当麻:「それより問題は人手の無さだ。とても音響や舞台操作まで手が回らないぞ」
泉:「裏方は私がやる。音響は天使隊のナマ演奏でいくぞ」
一同:「ええぇ〜ッ!?」
秀:「ちょ、ちょっと待った! オレ楽器なんて全然・・・」
泉:「なら歌え」
秀:「んなムチャな」
当麻:「アカペラか・・・案外いい演出かもな」
遼・伸・秀・征士:「よくないッ!! お前は楽器を練習しろ!!」
■三幕
体育館のステージの上。
主役2人は台詞もあらかた覚え、立ち稽古に入っている。
遼:「ああ、愛しい子。馬小屋では寒いでしょう。母さまが抱いてあげます」
泉:(手を叩いて)「ストップ! 真田、もうちょっと力抜いて喋れんのか。それじゃあ寝た子も起きるぞ」
遼:「す、すみません・・・」
泉:「それから毛利。何だその中途半端な笑いと手は?」
伸:「これはこういう演技です! 妻が神の子を産んだことに戸惑いながらも、夫として父として愛情を感じるという・・・」
泉:「芸が細かいのは結構だが、それはドラマ向けの演技だ。芝居というのはもっと、観客に分かりやすくやらんと」
伸:(ムッとして)「じゃあどうすればいいんですか」
泉:「要するにオーバーにやれ、ということだ。嬉しいなら笑う、悲しいなら泣く」
伸:「そんな単純でいいんですか!」
泉:「めでたいシーンをわざわざ複雑にしてどうする」
伸:(こめかみに血管を浮かせて)「だったら、マリアとイエスを抱え上げてダンスでも踊りましょうか?」
泉:「おう、そりゃいいな。決定。ちゃんと練習しとけよ」
キレかかる伸を取り押さえる遼。
遼:「耐えてくれ、伸! おれ、がんばってダンス覚えるから」
伸:「いや、君が覚えても・・・」
■三幕
被服室。
当麻と秀が布やミシンと格闘しながら衣装を作っている。
秀:「何でオレ達がこんなこと・・・」
当麻:「仕方ないだろう。天使ってのは固定のイメージがあるんだから」
秀:「せっかく羽根つけるんなら、ちゃんと飛びたいよな」
当麻:「天井からワイヤーで吊すとか?」
突然、教卓の中から泉が現れる。
秀・当麻:「うわぁッ!?」
泉:「いいアイデアだ。採用」
秀:「げっ、マジ!?」
当麻:「あそこは全員舞台に出てるぞ。あんた1人じゃワイヤー調節は無理だろう!」
泉:「あらかじめステージギリギリの高さで止まるようにしておけば大丈夫だ」
秀:「それじゃほとんど、バンジージャンプじゃねぇかッ!!」
泉:「その緊迫感が感動を生む」
当麻:「・・・本番は衣装の下にアンダーギア着用だな」
秀:「こいつ、後で絶対お礼参りしてやる」
■四幕
本番当日、公演先の樹丘小学校。
観客の中には、どう見ても小学生でない若い女性も混ざっていたりする。
遼:「ど・・・どど、どうしよう・・・。緊張してきた」
伸:「大丈夫、落ち着いて。あれだけ練習したんだからきっとうまくできる」
秀:「そうそう。客はみんなカボチャだと思えばいいさ」
征士:「それではなおさら気が散るではないか」
当麻:「そりゃお前だけだ・・・」
泉:「おし、時間だ。行くぞ」
一同:「おう!!」
鳴り響く開演ブザー。
体育館が徐々に暗くなって・・・終幕。
翔さん、すみません!!!
ひたすら深〜くお詫びします。
なお、この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。ありませんったら。
文/泉 静流
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