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「おい、何やってんだ?」
後ろから不意に声をかけられ、私は振り向いた。
「散歩に行ったきりなかなか帰ってこないと思ったら・・・。みんな心配してるぞ」
声の主は困ったように眉根を寄せていた。おそらく私があまりにぼんやりしていたので、しばらく声をかけ損ねていたのだろう。
「すまない。雪が美しいので、つい」
素直に詫びると、少し意外そうな顔をされてしまった。
「へぇ・・・お前でもそんな感傷に浸ることがあるんだ」
ずい分な言い種だ。
「お前に言われたくはないな、当麻」
「お互い様だろ。それよりさっさと帰るぞ。いつまでもこんなとこに突っ立ってたら風邪ひいちまう」
そう言われ、自分が防寒着はおろかマフラーすら持っていないことに気付く。
当麻の方はと言うと、フード付きのマウンテンパーカーに毛糸の手袋、黒いこうもり傘という重装備である。
「たかがこれしきの雪で、何という格好をしているのだ」
呆れて問うと
「山は空気が冷えるからな」
事も無げに切り返されてしまった。
確かに山の寒さは平野部のそれに比べて骨身に沁みる。家で待っている者達にも余計な気を遣わせるのは悪いので、私は歩き出した。
「積もりそうだな」
鉛色に垂れ込めた雲を見上げて、当麻が呟く。
「ああ。明日の朝には雪かきをしなくては」
「うわ、キツそう」
「安心しろ、誰もアテにしておらん。どうせ起こしても起きんのだろう」
笑いながら言ってやると
「失礼な。俺だってやるべき時はやるさ。何せ居候の身だからな」
垂れ気味の目に抗議の色が浮かんだ。
「そう願いたいものだ。まあ、そんなに身構えなくても、雪は積もってしまえば案外暖かい。それに明るいから、すっきり目が覚めるかもしれんぞ」
悪乗りがすぎるなと思いつつ、さらに茶化す。
「へえ、そうなのか」
怒るかと思いきや、当麻はむしろ感心した様子だった。
「何だ、本当に知らんのか?」
『知らない』という単語とはおよそ無縁と思っていた相手なだけに、意表をつかれた。
「スキーに行ったことくらいはあるが、雪の中の生活ってのは経験ないんでな」
そう言えばこいつは大阪在住だと言っていた。あの辺りには積もるほどの雪は降らないのだろう。
「そうか。雪は冷たいし不自由も多いが綺麗だぞ。光を反射して真っ白に輝く眺めは格別だ。寒さやつらさも吹き飛ぶ」
「眼が痛くなりそうだな」
「もう少しマシな感想はないのか」
思わずがっくりと肩を落とす。
「『雪目』ってのがあるだろうが。白は光の三原色RGBが全部重なって初めて発現する、自然界で一番明るい色なんだぞ。紫外線の反射率も・・・」
訳の分からない蘊蓄に発展しそうになるのを慌てて遮った。
「わかったわかった。ならサングラスでもかけろ」
「・・・お前、そこまでして俺に雪かきさせたいか?」
当麻は明らさまに恨めしそうな顔をした。
「やる時はやるんじゃなかったのか」
「今の話を聞いて、労働意欲が25%ダウンした」
「ほう。ならば気持ち良く働けるよう、朝一番の新雪に抛り込んでやろう」
「やめろ! 人を殺す気か!?」
大袈裟な。二階の窓から雪の中に落ちた程度で死んでいたら、サムライトルーパーなどやっていられないと思うが。
当麻はブツブツと小声で不平をこぼしながら、白くなり始めた道を不規則な歩幅で進んでゆく。危なっかしいというほどではないにせよ不慣れな足取りに、さすがに少し気の毒になった。
「冗談だ。どうしても嫌だと言うなら、無理にやらなくてもよい」
苦笑混じりにフォローする。実際、門と玄関だけなら4人で充分に事足りる。
だが当麻はこちらに向き直り、きっぱりと宣言した。
「いや、俺もやる」
何やら意地になっているような雰囲気だ。少しからかいすぎただろうか。
対応に戸惑っていると、当麻はニッと笑った。
「雪は光を増幅させる。光輪殿のお手並み拝見といこうじゃないか」
「・・・それはただの嫌がらせと言わないか」
「勘ぐりすぎだ。この俺がわざわざ早起きしてやろうってんだぞ?」
・・・やはりこいつは根性がねじ曲がっている。しかし『早起きする』と決心したのは画期的だ。明日はかなりの大雪を覚悟しておいた方がよいかもしれない。
「いいだろう。道場と学校で鍛えた雪かきの腕前、とくと見せてやる」
売り言葉に買い言葉ではないが、私も乗ってやることにした。雪国育ちを甘く見てもらっては困る。せいぜい明日の朝、感服するがよい。
私達は互いの目を見て約束を確認し、屋敷の方へ走り出した。
決戦は明日の早朝。
ナスティにスコップを用意してもらわねば。
==========【終わり】==========
申し訳ありません、りょうこさん!!!
あの美しくてやさしいイラストが、なぜにこんなアホウな話に・・・!?
当×征を意識した訳じゃないんですけど、雪について一番ズレた知識を持ってそうなのが当麻でした・・・(笑)
なんか2人ともタダの中坊になっちゃって、夢の欠片もありません(自爆)
文/泉 静流
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