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晩秋の連休初日。あの戦いから数年、大学生となっていたトルーパーたち5人に、誰が言い出したのか小田原の柳生邸への召集がかかった。純も高校生となっており、声をかけると二つ返事でO.Kだった。
久しぶりの全員集合。彼らは電話などで連絡を取ることはあっても、個人的に会うことはなかった。暗黙の了解。集合場所は柳生邸。彼女がこの家にいるからこそ、彼らは集う。
この日、柳生邸に訪れた彼らは、ちょっとしたサプライズにあうことになった。
一番乗りは、地理的にも近い秀だった。落ち葉の舞う中、彼は家に向かう道を駆け
上る。
数年前はここで寝泊りもしていた。勝手知ったる他人の何とやら。いつもの訪れの
ようにドアを開けた彼は、腹の底からの悲鳴を上げた。
「出た〜〜〜!」
玄関にいたのは朱天。藍色の紬を着た彼は、ナスティに言われて客を出迎えただけなのだが。目の前で叫ばれて、ただ立ち尽くしていた。
奥でこらえきれなくなったナスティの笑い声が響いてくる。
「なんてぇ脅かし方だ。ナスティも人が悪いぞ」
荷物を部屋に置いた秀は居間のソファで差し出されたお茶を飲んだ。まだ動悸が収まらない。なんで今ごろ、とも思い本当に驚いたのだ。しかし、今は怒りよりも笑いが勝っている。朱天はいくらか申し訳なさげに、それでも笑っていた。
「相済まぬ。ナスティがどうしても驚かすのだ、といって聞かなくてな」
みつめあう二人の間に何かを感じ取った秀だったが、何も言わずにおいた。それよりも興味は他に向いている。
「何時こっちに来たんだよ」
素朴な問いに朱天は壁のカレンダーを見つめた。それは月ごとのもので、途中から前日までの数字が消されていた。確かめるように見てから答える。
「二週間前、だな」
答えは短い。まあいい、尋問役は適任がいるから奴に任せようと、秀はそれ以上の追及は諦めた。それに説明するにしろ、一度で済ませた方が良いに決まっている。そして消された数字に合点がいった。現代生活の知識を今、彼は勉強中なのだ。
「ナスティ、朱天の出迎えは全員が受けるんだよな?」
秀はわくわくしていた。ナスティも目が笑っている。
「そうよ。これはサプライズなんですもの」
そうしているうちに玄関の方に気配を感じた。第二の犠牲者。朱天は玄関に向か
う。
ドアが開けられた。
数年前も彼らはこの家で共同生活をしていた。しかし、そのときの空気はいつも張りつめ、彼らは緊張を強いられていた。いまは違う。ここに集う彼らに緊張感はない。表情も明るい。久しぶりに集まった彼らは皆、再会を喜んでいた。そして、死んだと思われていた朱天が生きていたことに驚きつつも喜び、またなぜここにいるのかという考えに突き当たり、一抹の寂しさも感じた。姉のような存在の彼女は、いま一人の男の手を取ったのだ。その男をよく知るがゆえ、認めないわけにはいかなかった。それでも驚かされた意趣返しくらいはやっておきたい。
その日の食事時、朱天はゆっくりと味わう暇はなかった。久しぶりの客人がとっかえひっかえ説明を求めたからだ。いつこちらに来たのか、妖邪界はどうなのか。六対一と数の上での敗北を朱天は心の中で認め、一つ一つ説明をした。目覚めたのはつい先日だったこと。妖邪界で生きようとしたこと。しかしながら迦遊羅や三魔将達に追い出されたことなど。ナスティも手助けとばかりに説明を加えた。それを彼らがどう感じたかは知らないが。ただし、彼女への追求は手心が加わったことはもちろんである。
賑やかな食事を終え、居間へと移る。話題は各々の生活についてだった。高校に入ったばかりの純が学校の話をしている。大学生たちは、懐かしい生活を振り返りながら助言やまぜっかえしをする。
朱天は、そんな彼らを少し離れた場所から見ていた。
「楽しそうね、何の話?」
食後の片付けをすませ、お茶を入れたナスティが現れた。恐縮する伸に、一日目は
お客様してて、と答えお茶を配る。
一番に朱天のもとに行き湯飲みをおいた。そのそばに自分のを置いて、彼らのほうに向かう。伸がお盆ごと受け取った。
「聞いてよ、お姉ちゃん。僕の高校ってさあ…」
純が話し続ける。秀がちゃちゃを入れては横道にそれていく。
「…でさ、お姉ちゃんは学生時代、どうだったの?」
不意に話を向けられて、朱天と話をしていたナスティは顔を向けた。
「え?私が何?」
一瞬の間。当麻が話を続ける。
「ナスティってフランス育ちだろ?当然学校もあっちだからどうだったのかなって」
18歳で大学の助手待遇だったのだ。智将と呼ばれる彼も興味が湧いていた。
「そうねえ、…私は、小学校というものに行ったことがなくて」
「ええっ」
第一声から驚きの声があがった。日本では大半はごく当たり前に学校に行くものだが、あちらでは違うらしい。慌てて説明を加える。
「そうじゃないの、義務教育はあるわよ。でもそれは教育を受けさせる義務であって、学校に行かせる義務じゃないでしょ」
当麻が口笛を吹いた。他のものはただ呆然とするのみ。
「12歳まで家庭教師がついていたわ。さすがに中学・高校は行ったけど、16歳でバカロレアに通ったから、2年で大学卒業しちゃった」
あっさり言う彼女に、当麻は青くなった。合計5年。5年も飛び級しているのだ。暗算をして、指折り数えて検算する。さすがに伸もこめかみをひくつかせていた。後のものは気づいているのかいないのか。のんきに感心している。
「向こうでは東洋史を勉強したの。少しでもおじい様のお役に立ちたかったから。それで、日本に来る前に日本語で論文を2本書いて千石大学に提出して、特例として助手を認めてもらったの」
卒業試験と重なって大変だった、と懐かしそうにフランスでの生活を振り返るナスティを、その場にいた者は初めて見たのだった。
「なーんかさあ、ナスティって当麻より頭よさそう」
秀の声に、一同うなずく。これには当麻もカチンと来た。
「秀。貴様ー」
ソファをはさんでの追いかけっこが始まった。遼や征士、伸はそれを笑ってみている。
「そうそう、智将の二つ名、ナスティにあげたら?」
「伸、おまえが言うと冗談に聞こえん」
征士がつぶやいた。みんなが、笑い転げた。
夜もふけて、みんなが寝静まった頃、ナスティもようやく眠ることにした。ガウンを羽織り、戸締りの確認をするため、家の中を見て回る。これだけは欠かした事はない。二階はすでにひっそりとして、全員眠ったようだった。廊下側だけ確認し、一階に下りる。朱天は居間のソファで横になっていた。柳生博士の部屋は頑固にも使うことはなく、客間も遼たちに気を遣ったのだろう、ここで眠ることにしたのだ。薄い毛布だけの彼は安らいだ寝顔で、ナスティを安心させた。
「もう、眠るのだろう?」
気配に敏感な彼は、すぐ目を覚ます。彼女はソファ近くの床に座り込み、顔だけを彼の胸もとに寄せた。
「帰りたいか?フランスとやらに」
突然言われて、顔を向ける。考えたことも無かった。どうして、と問いが口の中で消える。
「先ほどの話で、そなたの顔があまりにも懐かしそうに故国を思っていたように見えたゆえな」
朱天の言葉に、ナスティは思わず吹き出した。そのまま、声を殺して笑い出す。
「もしかして、妬いてくれているの」
笑いをかみ殺しながら彼女は尋ねた。今度は朱天が心のうちを読まれたか、と驚く。
「そうだな、我の知らぬ過去のそなた。どんな様子だったか知りたくてたまらぬ」
起き上がった朱天に、彼女もソファに座りなおしその肩にもたれかかる。彼は知らないのだ。彼女は、彼と一緒にいる時が一番幸せなのだということを。
「帰らないわ。私のいるべき場所はここだもの」
あなたのところだけよ。その思いを、言葉を変えて言ってみる。しばらくそのまま動かなかったが、やがてナスティが立ちあがった。
「寒くはない?」
毛布だけの彼に尋ねる。今日こそは祖父の部屋を使うと思っていたが、甘かった。この季節、昼間はそうでもないが、朝晩の冷え込みは厳しくなっている。
「まだ大丈夫だ。冬はこんなものではあるまい」
自分は恵まれている、と軽く笑う。ナスティは来ていたガウンを毛布の上からかけた。少しでも、暖かくしていてほしかった。遠慮する彼に、すぐ眠るからと言って譲らない。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
挨拶を交わすと彼女は部屋に戻った。ベッドに入り、朱天のぬくもりを確かめる。
「帰らないわ。帰るものですか。もう決めてしまったのだもの」
呪文のように彼女はつぶやく。早くあの家を出たかった。あの家を出られるのならどこでもよかった。ただ、博士がおいで、と言ってくれたから。そのための勉強だった。そのための来日だった。祖父が死んでからは戦いの中が自分の居場所だった。必要としてくれる者達がいたから。戦いが終わってからはまた、探していた。自分を受け入れてくれる場所を。自分の存在を認めてくれる者を。やっと見つけた。もう離れたくない。
彼女はゆっくりと眠りにおちた。
===<END>===
後書きです。
完全にオリジナル設定が顔を出してます。でもナスティのフランス生活って一度も出てこなかったし、良いかな、と。
トルーパー達の家族ってちゃんと家族としてのつながりがありそうだったけど、ナスティに関しては、柳生博士だけだったような。それで、フランス在住の父母との関係がちょっと訳ありみたいに書きました。
楽しんでいただけるといいのですが。
===byけいっち様
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