幻のアイドル
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柳生邸のリビング。
「なんじゃ、こりゃあ!?」
素っ頓狂な声が壁やサイドボードにぶつかって撥ね返る。
「あら秀、いらっしゃい。どう、素敵でしょ、それ?」
屋敷の女主人は、いつものようにあいさつを省略して上がり込んだ客人を屈託のない笑顔で迎えながら、奇声の原因となった物体を事も無げに自慢した。
「ステキって・・・どう見たって当麻じゃねぇか!?」
秀は言外で精一杯、同意できないと訴えた。
「当麻よ」
「何で当麻が『ステキ』なんだよ?」
「・・・・・・あなた、さり気なく失礼極まりないこと言ってない?」
ナスティが冷静かつ鋭い指摘をする。だが秀は怯むどころか逆襲に転じた。
「あー、そうなんだ。ナスティは当麻のこと、そんな目で見てたんだ。ふ〜ん」
一歩後ろに下がって距離を取り、腕を組む。
「ちょっと・・・何言ってるのよ、もう・・・」
ナスティは怒るより先に脱力した。TVや雑誌の影響で知識だけが先走った小学生と同じレベルの発想、しかもいきなり論点がずれている。彼らしいといえばらしいのだが。
秀はそんな彼女の心中などお構いなしに言い募る。
「だってそうじゃんか。そーゆう気持ちがなきゃ写真なんか飾らないだろ。こんなところに、こーんなでっかく」
「バカね。そういう気持ちがあったら、わざわざこんな目立つとこに飾ったりしないわよ」
「・・・・・・」
秀は「はっ」と擬音がつきそうな表情をしてから、慌てて口をへの字に結んで押し黙った。ナスティはそれを納得と受け取り、説明を始めた。


「これはうちの大学の宣伝ポスターなの」
「え?」
秀の口が今度はぱっくりと開く。
「宣伝って、何で当麻が・・・?」
「あの戦いの後、わたしと当麻で鎧と妖邪に関する研究を論文にまとめたの。それを学会に発表したら、『知られざる日本史』なんて、けっこう反響を呼んじゃって・・・」
「へぇ・・・何かすげェな」
感心すると同時に、2人がよく電話や手紙のやり取りをしていたことを思い出す。学者肌同士で馬が合うとは思っていたが、まさか共同研究までしていたとは。
「ほら、当麻って『天才』の部類に入るじゃない。うちの学長もとても高く評価して、飛び級が認められるなら今すぐ研究者として入学させたいって。もちろん、当麻は鄭重にお断りしたんだけど」
しかし大学側は未練を断ちがたく、ならばせめて当校のイメージキャラクターにと食い下がった。当麻は結局その熱意に押し切られる形で渋々承諾したらしい。ただし1度限りで名前は公表しないという条件付きだ。
「渋々って割にはノリノリじゃねーか」
光の加減によってはセピアにも見えるモノクロームの向こう、当麻は普段の飄々とした態度からは想像もつかない物憂げな視線をこちらに流している。長い前髪から覗くすらりと伸びた眉、柔和な中にも冴えた叡知の光を秘めた眼。カジュアルに着崩したスーツが長身痩躯によく似合う。何の先入観も持たずに見たら、確かにモデルと言っても通用しそうな二枚目ぶりだ。

「実物知ってるヤツから見たら、すっげェ化けっぷりだよな。ほとんど詐欺」
情け容赦のない評価に、ナスティは思わず吹き出した。
「ひどいわねー。ま、わたしもちょっとは思わないこともないんだけど」
「だろ。大体この目、まだ起きてない時の表情だぞ」
「わかる? 実は撮影が午前中でね。念には念を入れて何回も電話したのに、当麻ったら遅刻してきたのよ!」
「あー、やっぱしな。でもむしろ寝ボケ状態で正解だったんじゃねーか。目ェ醒めてたら、こんな顔ぜってーできねぇぜ」
散々な言い種だが、あながちこき下ろしと言い切れないところが悲しい。
「でもお陰で評判は上々なの。来年は女子の受験生が増えるかもね」
素直に喜ぶナスティとは逆に
「だからってなぁ・・・」
秀は複雑なため息をついた。
「この“I miss you”ってキャッチコピーはやりすぎなんじゃないか? すっげぇ思わせぶり」
「あら」
ナスティが口を押さえた。
「それは試作の色校正にわたしが書いたのよ」
「あ、・・・ホントだ」
近寄って確かめる秀。瀟洒なレタリングはよく見ると油性マジックの筆跡だ。
「かりにも学校の宣伝に、そんなコピーを使うわけないでしょ」
「じゃあ何でわざわざこんな?」
秀の問いにナスティはいたずらっぽい笑顔を返した。
「せっかく素敵に撮れたんだから、もっとかっこよくしてあげようと思って。こういうコピーが入ると本物のアイドルみたいでしょ?」
秀は一瞬ぽかんとしてから、盛大に吹き出した。
「ナ、ナスティって・・・意外にヒマ人」
「まあ!」
怒る素振りを作ってみせるが目は笑っている。ナスティ自身もこの悪ノリを気に入っている様子だ。

「これ、このまま貼っとくよな?」
「もちろん。みんなにも当麻の勇姿を見せてあげなくちゃ」
2人はささやかな企みにわくわくしながら頷きあった。
「あーでも、ちょっとくやしいな。来年はオレがモデルをやってやるよ」
「ありがとう、助かるわ。あとの3人も協力してくれれば、向こう4年間は安泰なんだけど」
「いっそ5人でユニット組んでデビューってのは? ナスティがプロデュースしてさ」
「調子に乗らないの」
しなやかな指が秀の額を弾いた時、玄関のチャイムが鳴った。



+==========【終わり】==========+




もはや言い訳もございません!!
当麻のかっこよさってボケの時と二枚目の時のギャップにあるんじゃないかと・・・ええ、わたしは一応当麻ファンです(自爆)
でも彼はモデルなんて絶対引き受けなさそう(汗)
文/泉 静流




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