脚本:泉 静流 / 作画:なかだゆりか / 演出:泉 鏡一



【参】鬼武者

眠れぬ夜が明け、朝。
朱天が大部屋の障子の破れ目からナスに向かって投げ文を放る。
ナス、読んでそっと表に這い出す。
橋の半ばに昨夜の二股烏帽子の男が立っていたので、目を合わさないように会釈して通り過ぎる。

朱天:「連れの5人に会わせよう。ついてきなさい」
案内された先は赤い屋根の畜舎。すっかり豚と化した5人がのんきに眠っている。
ナス:「遼、秀、征士、伸、当麻、必ず助けるから、あんまり太っちゃだめよ!」
だっと駆け出し、畑の中でうずくまる。

朱天:(風呂敷包みからナスティの服を取り出し)「これを。帰る時必要であろう」
ナス:(ポケットに入っていた免許証を見て)「ナスティ・・・わたしの名だわ」
朱天:「アラゴは名前を奪って支配する。普段はナスでいて、本当の名は隠しておくのだ」
ナス:「わたし『ナス』になりかけてた。あなたは平気なの?」
朱天:「私はもう思い出せぬ。それより食事がまだであろう。食べなさい」
さらに風呂敷からヤカンと握り飯を取り出す。
ナス:「ごめんなさい、食べたくない」
朱天:「食べなくては体が保たない。ナスティに食べさせようと徹夜で作った。何しろ厨房に立ったことがないゆえ、米を炊くにも七転八倒で・・・」
そう言う朱天の目の下にはクマ。よく見ると、体のあちこちに絆創膏や包帯が巻いてある。おにぎりを作るだけで一体どうすればこんなケガができるのだろう?
ナス:(冷や汗を浮かべて)「・・・じゃあせっかくだから頂きます」
覚悟を決めて一口かじると、案外まともな味がする。ヤカンのお茶と一緒に喉に流し込んでいるうちに涙が溢れてくる。
朱天、無言でナスの肩を抱いて励ます。

湯呑みぐらい持ってきてやれよ、兄ちゃん

ナス:「朱天、ありがとう。わたし頑張るわね」
ナス、手を振って朱天と別れ荒誤屋に戻る。
その後ろを消えたり現れたりしながらついてゆく二股烏帽子の男。


雨。荒誤屋の一日が始まる。
従業員の札をひっくり返して出勤するナス。5人の助手の世話をしていたおかげで、そつなく仕事をこなす。
雑巾の洗い水を捨てに行くと、中庭にあの二股烏帽子の男が立っている。
ナス:「あの・・・そこ濡れませんか?」
二股烏帽子:「・・・・・・」
ナス:「ここ、開けときますね」


現場長:「アヌビス、ナス。今日から大湯番だ」
アヌビス:「何ィーッ!? ありゃ妖邪兵の仕事だろ!」
現場長:「四の五のぬかすな。余計な波風を立てていびり出されたいのか?」
アヌビス:「ちっ・・・、分かったよ。ナス、行くぞ」
大湯。巨大な風呂釜は図鑑にも載っていないような水苔にびっしりと覆われ、もはや地金すら見えない。
アヌビス:「こりゃあ、ちょっとやそっとじゃ落ちんな。ナス、番台行って薬湯の札もらってこい」
ナス:「はい」
番台はナスの頼みを無視するが、二股烏帽子の男が札を盗んで渡す。
薬湯が一杯になった頃、一番客がやってくる。

アラゴ:「ん? 妙な気配・・・招かれざるモノが紛れ込んだようじゃのう」
サイドテーブルの電話が鳴る。
番台:「アラゴ様、剣舞卿です。それも特大の!」

巨大黒炎王を従えた特大剣舞卿、進路にあるものを手当たり次第に切り伏せながら荒誤屋に到着。騒然とする浴場。強烈な殺気で誰も剣舞卿に近づけない。
現場長:(怠そうに進み出て)「お客様、当店は武器の持ち込みをお断りしております」
剣舞卿、意外にもおとなしく剣を預けて入浴料を払う。
現場長:「まいど。ナス、お前の初仕事だ。失礼のないよう世話をしろ!」
ナス:「はい!」

ナス、剣舞卿を大湯に案内し、入浴に邪魔なマントを外してやる。
と、剣舞卿の体から何かが突き出しているのに気付く。
ナス:「アヌビスさん、ここ、筒みたいのが刺さってる!」
アラゴ:「! アヌビス、ナス、そ奴は剣舞卿などではないぞ! これを使え!」
現場長:(ぼそっと)「今更出てきて・・・これだから経営者は・・・」
投げ渡される荒縄。それをアヌビスが筒に巻き付け、従業員一同が引く。
盛大な音を立てて抜ける筒 ―― 何と戦車である。抜けた穴から次々と機関銃や高射砲や戦闘機が溢れ出し、床に散乱する。そして最後に残ったのは大陸間弾道弾!
アヌビス:「げーっ!! 何でこんなものが!?」
現場長:「早く外に捨てろ!」
ナス:「だめよ、ターゲットがここになっているわ!」
アラゴ:「お、おのれ剣舞卿め・・・総員、退避ー!!」
ナス:「待ってください! わたしが解除してみます」
ナス、コンソールを開き、慣れた手つきでキーボードを叩く。何とかパスワードを割り出し入力すると、ロックオンが解除され、弾道弾は煙となって消える。
穢れを落とした剣舞卿、白い虎にまたがった少年の姿に変わり
少年:「ありがとう、お姉ちゃん」
ナスに勾玉を握らせて飛び去る。
見物していた神々はやんやの大喝采。
アラゴ:「よくやった、ナス。あれは名のある山の神じゃ! 置いていった武器はどれも最新鋭、大儲けぞ!」
現場長:「頼みますから中東に売るのはやめてくださいよ」









翌朝。 ナスが目を覚ますと、すでに部屋には誰もいない。
ナス:「どうしよう、寝坊しちゃったのかしら」
慌てて着替え、廊下に出る。

窓の外を見ると、猛スピードで海の上を飛ぶ黒い影が。影は陣羽織をつけた鎧武者のようで、無数の金色の鳥のようなものに追われている。
ナス:「朱天、しっかりーっ! こっちよーっ!!」
呼ばれた鎧武者、流血をまき散らして大部屋に飛び込む。ナスがすかさず戸を閉めたので、鳥はガラスにぶつかってただの紙切れになる。
ナス:「朱天、大丈夫!?」
朱天、ナスの手をはね除け窓の外へ跳躍。そのまま最上階のアラゴの部屋に消える。
ナス:(手にべっとりとついた血糊を見つめ)「ど・・・どうしよう、朱天が死んじゃう!」

ナス、最上階へ上ろうと荒誤屋本館に向かうが、そこは二股烏帽子の男が大盤振る舞いをして貸し切り状態になっていた。
二股烏帽子:(ナスの前に立ちはだかり)「ア・・・ア」
剣や鎧などを出して見せるが、ナスは首を横に振る。
ナス:「いりません。わたし、急ぐので失礼します!」
ナス、エレベーターを使うのを諦め、別ルートへ廻る。
すげなくフラれた二股烏帽子、逆上して大暴れ。妖邪兵と地霊衆を次々に呑み込む。

現場長:(応戦するが)「くっ、俺の力では抑えきれん! アラゴ様をお呼びしろーっ!!」


ナス、外の非常梯子を上り何とか最上階に入る。肩に先程の鳥が張り付いているが、気付かない。アラゴの部屋のドアを開けようとした時、いきなり喉元に剣を突き付けられる。
この格好は犯罪かもしれない(苦笑) 嬢:「何者です!?」
ナス:「あ・・・ごっごめんなさい、勝手に入って。わたしの大事な人が死にそうなの。お願い、見逃して」
嬢:「いいでしょう。その代わり、わたくしと遊びなさい」
ナス:「わかったわ、朱天を助けてから・・・」
嬢:「なりませぬ! 今すぐです」
ナス:「一刻を争うの。通して、お願い!」
嬢:「遊んでくださらねば、嬢は泣きますよ?」
ナス:(嬢の脇腹をくすぐり)「今はちょっとだけ我慢して!」
ナス、嬢がひるんだ隙にアラゴの部屋に転がり込む。




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