明治時代に剱岳(標高二、九九九メートル)の山頂で見つかった国指定重要文化財「錫杖頭(しゃくじょうとう)」の蛍光X線分析の結果が、十七日までに富山県立山博物館に届いた。制作年代や制作地は最新の手法でも特定に至らず、剱岳の錫杖頭は従来通り「奈良時代末期から平安時代初期」という大まかな制作年代で語られることになった。
錫杖頭の制作年代については、発見から四年後の一九一一(明治四十四)年、考古学者の高橋健自が論文の中で、素朴な形状から「奈良時代末期から平安時代初期」と推定し、以来、これが定説のようになっている。
蛍光X線による分析は、立山博物館の依頼を受けた元興寺文化財研究所(奈良市)が行った。報告書によると、錫杖頭から検出した銅、鉛、スズの元素から青銅製であることが確認されたものの、奈良時代の青銅に特有のアンチモニーは検出されなかった。また、金メッキの有無を示す金の成分も確認できなかった。報告書は「制作年代、制作地とも直接、示唆する情報は得られなかった」としている。
立山博物館の福江充主任学芸員は、立山信仰の最古の仏教的痕跡である錫杖頭を山頂に持参した人物は「捨身修行者」とみているが、「今回の分析でも、これまで通り概説でしか年代を語ることができないのは残念」と話した。今後は、立山信仰の変遷と絡めて研究を進めるとしている。
◆剱岳の錫杖頭 1907(明治40)年、陸軍参謀本部測量官の柴崎芳太郎の一行が、鉄剣とともに剱岳山頂から持ち帰った。柴崎らより先に剱岳に登頂した者がいたことを示す証拠であり、剱岳の山岳信仰を物語る。
長さは錫杖頭が13・4センチ。鉄剣が22・6センチ。いずれも国指定重要文化財で、立山博物館が所蔵・展示している。
2008年(平成20年) 8月18日富山新聞掲載から