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家には誰もいなかった

タンスも

屑籠にも冷蔵庫にも

いなかった

ただ

いなかった だけがいて

迎えてくれる

おかえりなさい

僕は黙って服を脱ぐ

それから 小さなテーブルと向き合って

ぼくと

いなかったとの

食事が始まる

1999.10.5

私の目が もしつぶれてしまっても

私はあなたを見ることができます

私の耳をふさいでごらんなさい

私はあなたを聞くことができます

そして 足がなくなってしまっても

あなたの所へゆくことができます

口がなくても

あなたを呼ぶことができます

私の腕を折ってごらんなさい

私は手でするように

私の心であなたを捉えます

私の心臓を止めてごらんなさい

すると 心が脈打つでしょう

そしてこの心のなかへ火を投げ入れようとも

私はあなたを血のうえに担ってゆくでしょう

1999.9.3

夢にも

帰っていく所があるんだろうか

明け方の人通りの少ない道で

ふいに不審尋問されたとき

はっきりと答えられるような場所が

あるんだろうか

そこでは

たくさんの夢が星座のように積み上げられて

手をのばせば

いつでも好きな夢に手が届く

もし

そんな場所があるなら

行って

その中の一番すてきなやつをもらってこよう

そして

それをそっと君の夜に届けよう

長い間出せないままでいた 長い

手紙のようにして

1999.8.13

落語に

おもしろい話がある

.

ある北国に

ひどく寒い町か村かがあって

そこでは何でも凍る

水たまりや

蛇口はもちろん

朝の

おはよう

まで凍ってしまう

おは

パリッ

てなもんで

どんなおはようも

ここでは

決して相手に届かない

ただ

春になると

それらがいっせいに解けだして

あっちでも おはよう

こっちでも おはよう

と 鳴り響き

うるさいのうるさくないの

という話

だけど

知ってる?

落語のことではなくて

今朝 ぼくが君に言ったこと

おはよう

も言ったけど

そのほかにも言ったこと

聞こえなかった

のはたぶん凍ったせいだろう

.

ここも

相当寒い

.

だから

もうこれ以上

寒い言葉を吐くのはよそう

.

今は何を言っても凍るから

何も言わずに

そして

ひたすら春の来るのを待とう

春になれば

きっと解けるに違いない

たくさんのおはようといっしょに

ぼくの言葉も

君の言葉も

それらのぶつけ合った訳も

お手

と言ってみた

するわけないでしょネコが

と 隣で女が言った

それでも、と

ネコの脚をとって言ってみる

「お手、お手、お手・・・・・」

ネコは

持った手を振り払い

向こうへ逃げた

(キタナイ、キタナイ・・・・・)

と言うように

向こうで

持たれた脚をなめている

「かわいげのないネコじゃのう」

と呟くと

「犬じゃないのよ」と

女は言った

犬じゃないのよ

彼女は言った

1999.6.28

この世には

たいてい入り口と出口があって

「入り口は入っていくために

出口は出ていくために」

いつ誰がそう決めたのか

その逆をしようとすると

おこられる

美術館や遊園地の出入りも

駅の改札も

一日や一年の 初めと終わりも

生まれ

死んでいくことも

ままならず

1999.6.28

人は鳥じゃない

だから

飛べやしない

でも

君は空じゃあ

ない

1999.6.15

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